定年退職後の健康保険の選び方は、老後の家計を大きく左右する重要な決断です。
退職後の健康保険には「任意継続」「国民健康保険(国保)」「家族の扶養」の3つの選択肢があり、どれを選ぶかによって毎月の保険料が数万円単位で変わることもあります。
本記事では、任意継続と国保の保険料の仕組みを丁寧に解説し、月給30万・40万・50万の3パターンで保険料の概算を比較します。
「自分はどちらが得なのか」という疑問に直接答えられる内容を目指しましたので、ぜひ参考にしてください。
退職後の健康保険の選択肢全体については[親記事「退職後の健康保険はどうする?任意継続・国保・扶養の比較と選び方」]もあわせてご覧ください。
扶養に入れる場合の条件については[退職後 健康保険 扶養 条件(別記事)]でも詳しく解説しています。
退職後の健康保険は3つの選択肢がある
在職中は会社が健康保険の手続きをすべて行い、保険料の半額を負担してくれていました。
しかし退職後は、自分で保険を選んで加入する必要があります。
主な選択肢は以下の3つです。
①任意継続被保険者制度は、退職前に加入していた健康保険(協会けんぽや健康保険組合)に、退職後も最長2年間継続して加入できる制度です。
給付内容は在職中と同じですが、在職中は会社が折半負担していた保険料を退職後は全額自己負担します。
②国民健康保険(国保)は、退職後に自分でお住まいの市区町村に加入する公的保険です。
保険料は前年の所得をもとに計算されるため、退職した翌年は在職中の高い所得をベースに保険料が算出されます。
一方で、退職後の収入が減る2年目以降は保険料が大幅に下がることが多いです。
③家族の扶養に入る選択肢は、保険料の自己負担がゼロになるため、最もお得な選択肢です。
配偶者や子どもが職場の社会保険に加入していて、かつ自分の収入が一定基準以下であれば扶養に入ることができます。
扶養に入れるなら最優先で検討する
扶養に入れる場合は、任意継続や国保と比べて圧倒的に有利です。
自分の保険料負担がゼロになるうえに、医療費の自己負担割合も変わらず3割(70〜74歳は2割)のままです。
ただし、失業保険(基本手当)の受給中は、基本手当日額が3,612円以上の場合は扶養に入ることができないため、受給終了後に扶養に入り直す流れが一般的です。
扶養に入れる条件の詳細については[退職後 健康保険 扶養 条件(別記事)]をご参照ください。
任意継続と国保、保険料はどちらが安い?
任意継続と国保の保険料はどちらが安くなるかは、退職前の給与水準と退職後の収入状況、さらにお住まいの自治体によって異なります。
まずはそれぞれの計算の仕組みを理解することが、比較の第一歩です。
任意継続の保険料の計算方法
任意継続の保険料は「標準報酬月額 × 保険料率」で計算します。
退職時の標準報酬月額(退職時の給与をもとにした等級)にそのまま保険料率を掛け合わせた額が毎月の保険料となりますが、上限が設けられており、2025年度・2026年度ともに協会けんぽの標準報酬月額の上限は32万円です。
退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた方は、32万円を上限として計算されます。
協会けんぽの保険料率は都道府県によって異なり、2025年度は全国で年齢を問わず9.44%〜10.78%の範囲内です(東京都は10.00%)。
40歳以上65歳未満の方は、介護保険料率1.60%が全国一律で加算されます。
たとえば東京都に住んでいて、退職時の標準報酬月額が30万円・40歳未満の方の場合、月額保険料は「30万円 × 10.00% = 30,000円」となります。
標準報酬月額が40万円でも50万円でも、上限の32万円で計算されるため月額保険料は「32万円 × 10.00% = 32,000円(40歳未満)」が上限です。
健康保険組合(職場の組合健保)に加入していた方は、組合ごとに保険料率が異なるため、退職前に加入組合に確認してください。
また、一部の組合健保では任意継続の保険料に独自の上限を設けており、協会けんぽより有利な場合もあります。
国保の保険料の計算方法
国民健康保険の保険料は「所得割 + 均等割(+ 平等割)」の合計で計算され、前年の所得をもとに毎年7〜9月ごろに確定します。
保険料の計算方法は市区町村によって異なりますが、基本的な構造は共通です。
所得割は「(前年の総所得金額等 − 43万円)× 所得割率」で計算します。
ここでいう「前年の総所得金額等」には給与所得・年金所得・事業所得などが含まれますが、退職所得(退職金を一時金で受け取った場合)は含まれません。
所得割率は自治体によって異なりますが、全国平均でおおむね7〜9%程度(医療分のみ)が目安です。
均等割は加入者一人ひとりに均等にかかる定額部分です。
これも自治体によって異なり、年間5,000円〜7万円程度と幅があります。
重要なのは、退職後に収入がゼロになっても、1年目は現役時代の所得をもとに保険料が計算される点です。
年収500万円で退職した方が翌年度に支払う国保保険料は、世帯構成や自治体にもよりますが年間30〜50万円を超えることもあります。
退職後に急激に収入が減る方にとって国保の1年目は高負担になりやすい半面、2年目以降(収入がほぼない場合)は保険料が大幅に下がります。
ケース別シミュレーション(東京都・1人世帯・60歳・40歳未満の保険料率で試算)
以下は東京都在住・1人世帯・60歳での試算です。
協会けんぽ任意継続の保険料率は東京都10.00%(介護保険料なし・65歳以上または40歳未満として試算)を使用しています。
国保は東京都新宿区の2025年度料率を参考に概算しています(所得割率:医療分7.47%+支援金分2.36%、均等割:50,200円+17,100円)。
いずれもあくまで概算であり、実際の金額は自治体や個人の状況によって異なります。
ケース①:退職前の月給30万円(年収360万円)の場合
退職1年目の国保の試算は以下の通りです。
給与所得は「360万円 − 114万円(給与所得控除)= 246万円」、賦課基準額は「246万円 − 43万円 = 203万円」となります。
年間保険料(概算)は所得割「203万円 × 9.83% ≈ 199,500円」+均等割67,300円で、合計約267,000円(月換算約22,000円)です。
任意継続の場合は「30万円 × 10.00% = 30,000円/月(年間360,000円)」となります。
| 比較項目 | 任意継続 | 国保(退職1年目) |
|---|---|---|
| 月額保険料(概算) | 約30,000円 | 約22,000円 |
| 年間保険料(概算) | 約360,000円 | 約267,000円 |
| 判定 | → 国保が約9万円安い |
ケース②:退職前の月給40万円(年収480万円)の場合
国保の賦課基準額:給与所得「480万円 − 133万円 = 347万円」− 43万円 = 304万円
年間保険料(概算):所得割「304万円 × 9.83% ≈ 299,000円」+均等割67,300円 = 約366,000円(月換算約30,500円)
任意継続の場合は「32万円(上限)× 10.00% = 32,000円/月(年間384,000円)」となります。
| 比較項目 | 任意継続 | 国保(退職1年目) |
|---|---|---|
| 月額保険料(概算) | 約32,000円 | 約30,500円 |
| 年間保険料(概算) | 約384,000円 | 約366,000円 |
| 判定 | → 国保がやや安い(差は小さい) |
ケース③:退職前の月給50万円(年収600万円)の場合
国保の賦課基準額:給与所得「600万円 − 154万円 = 446万円」− 43万円 = 403万円
年間保険料(概算):所得割「403万円 × 9.83% ≈ 396,000円」+均等割67,300円 = 約463,000円(月換算約38,600円)
ただし、国保には年間上限(2025年度:医療分・支援金分・介護分合計109万円)があります。
任意継続の場合は上限の「32万円 × 10.00% = 32,000円/月(年間384,000円)」となります。
| 比較項目 | 任意継続 | 国保(退職1年目) |
|---|---|---|
| 月額保険料(概算) | 約32,000円 | 約38,600円 |
| 年間保険料(概算) | 約384,000円 | 約463,000円 |
| 判定 | → 任意継続が約8万円安い |
上記はあくまでも概算です。
正確な国保保険料は市区町村の窓口か公式サイトのシミュレーターでご確認ください。
任意継続の正確な保険料は協会けんぽ支部または加入していた健保組合に問い合わせると試算してもらえます。
保険料以外で比較する|給付内容・手続きの違い
保険料の金額だけでなく、給付内容や制度上の違いも比較に加えると、より適切な選択ができます。
傷病手当金・出産手当金の有無
在職中に病気やけがで働けなくなった場合に支給される「傷病手当金」と、産休中に支給される「出産手当金」は、在職中の健康保険の給付です。
任意継続の場合、退職後に新たに発症した病気・けがに対する傷病手当金は原則として支給されませんが、在職中に傷病手当金の受給が始まっていた場合は、任意継続後も継続して受け取ることができます。
国民健康保険には、傷病手当金・出産手当金の制度は原則としてありません(一部自治体で独自制度あり)。
定年退職後に再就職や副業等で傷病手当金が関係するケースは少ないですが、制度上の違いとして頭に入れておきましょう。
任意継続の2年縛りと途中変更のルール
任意継続に加入すると、原則として2年間は脱退できない仕組みでした。
しかし2022年1月の法改正により、「任意継続をやめたい」という意思を健保に申し出ることで、正当な理由がなくても途中で脱退できるようになりました。
途中脱退した場合は国保に切り替えることができますが、一度脱退すると任意継続への再加入はできません。
一方、国保から任意継続に切り替えることはできません(任意継続の申請期限である退職後20日以内を過ぎた場合も同様です)。
任意継続の加入期限は守ることが必須です。
ケース別おすすめ|あなたはどちらが得?
シミュレーション結果と制度の特徴をふまえると、大まかな選択の目安は次の通りです。
任意継続が得なケース
退職前の給与が比較的高く(月給40万円超)、かつ退職後も収入が続く見込みがある場合は、任意継続の保険料が国保より低くなることがあります。
特に協会けんぽの上限(標準報酬月額32万円)の恩恵を受けられる高所得層には有利です。
また、退職後1年目は在職中の所得をもとに国保が計算されるため、現役時代の収入が高かった方は1年目だけでも任意継続の方が安くなる傾向があります。
国保が得なケース
退職前の給与が低め(月給30万円以下)の方は、1年目から国保の方が保険料が安くなることがあります。
さらに退職後に収入がほとんどない場合、2年目の国保保険料は大幅に下がります。
任意継続は保険料が2年間原則固定(改定がなければ)なのに対し、国保は毎年前年の所得をもとに再計算されるため、収入が減った翌年度以降は国保が圧倒的に安くなります。
扶養に入れるなら最優先
配偶者や子どもなど家族の社会保険の扶養に入れる場合は、保険料が0円になる扶養が圧倒的に有利です。
失業保険の受給中は扶養に入れないケースが多いですが、受給後は速やかに扶養の手続きを取りましょう。
扶養に入れる収入要件(年間130万円未満が目安)など詳しい条件は[退職後 健康保険 扶養 条件(別記事)]をご参照ください。
自分に合った保険の選び方について専門家に相談したい場合は、FP(ファイナンシャルプランナー)への無料相談を活用することもひとつの方法です。
老後の収支計画も含めて幅広くアドバイスを受けられる無料相談サービスを利用すれば、健康保険の選択から家計全体の見直しまでサポートしてもらえます。
手続きの期限と流れ
健康保険の手続きには法律上の期限があります。
期限を過ぎると選択肢が限られてしまうため、退職後は速やかに行動することが大切です。
任意継続は退職後20日以内(厳守)
任意継続を希望する場合は、退職日の翌日から20日以内に手続きを完了しなければなりません。
この期限を1日でも過ぎると、任意継続には加入できなくなります。
また、退職前に2ヶ月以上継続して健康保険に加入していることも要件です。
手続き先は、協会けんぽに加入していた方は居住地を管轄する全国健康保険協会(協会けんぽ)支部です。
「任意継続被保険者資格取得申出書」を窓口に持参または郵送します。
組合健保に加入していた方は加入していた健保組合への申請となります。
なお、同時に退職後の住民税の手続きや失業保険の申請も発生するため、退職後すぐに動き出すことをおすすめします。
手続き全体の流れは[「定年退職の手続きチェックリスト完全版」(No.3記事)]で時系列にまとめています。
国保は退職後14日以内
国民健康保険の加入手続きは、退職日の翌日から14日以内に市区町村役場の担当窓口で行います。
14日を過ぎても手続き自体はできますが、資格取得日(退職翌日)まで遡って保険料が発生するため、放置するとまとめて請求されます。
手続きに必要なものは、会社発行の「健康保険資格喪失証明書」(または離職票)・マイナンバーカードまたは本人確認書類・世帯主の印鑑などです。
よくある質問(FAQ)
Q. 途中で任意継続から国保に変えることはできますか?
A. 2022年1月の法改正以降、任意継続から国保への途中変更が可能になりました。
任意継続をやめたい場合は、健保組合または協会けんぽ支部に「任意継続被保険者資格喪失申出書」を提出することで脱退できます。
脱退した月の翌月から国保に切り替えることができます。
ただし、一度任意継続を脱退すると再加入はできませんのでご注意ください。
2年目に収入が大幅に減り国保の方が安くなるタイミングで切り替えるのは有効な選択です。
Q. 保険料が払えなくなったらどうなりますか?
A. 任意継続の場合、保険料を納付期日(毎月10日)までに支払わないと、その翌日付けで資格が喪失します。
喪失後は国保への切り替えが必要です。
国保の場合は一定期間の滞納で「短期被保険者証」が発行されますが、長期滞納になると保険証が返還されて医療費の全額自己負担になるリスクがあります。
保険料の支払いが困難な場合は、自治体の窓口に早めに相談することで減額・猶予が認められる場合があります。
Q. 退職した年と翌年で国保の保険料は変わりますか?
A. 大きく変わります。
退職した年度の国保保険料は退職前年(または前々年)の高い所得をもとに計算されるため高額になりやすいですが、退職後に収入がほとんどない状態で年度が変わると、翌年度の保険料は大幅に下がります。
たとえば退職後に収入がゼロになれば、翌年度の国保保険料は均等割のみ(低所得軽減が適用されればさらに減額)となり、月数千円程度まで下がることもあります。
2年間の保険料を総合的に比較すると、収入が減る方には国保が有利なケースが多いです。
Q. 夫婦2人で退職した場合はどうなりますか?
A. 任意継続の場合、扶養家族(配偶者など)は保険料の追加負担なしに加入できます。
一方、国民健康保険は「扶養」という概念がなく、家族全員分の均等割が発生します。
夫婦2人で国保に加入する場合は均等割が2人分かかるため、その分だけ国保の保険料が割高になります。
扶養に入れる場合はその選択が最も有利です。
Q. 65歳以降の任意継続はどうなりますか?
A. 65歳になると、任意継続に加入していても介護保険の第2号被保険者から外れます(65歳以上は第1号被保険者として市区町村が直接徴収)。
そのため、65歳の誕生日の前日が属する月以降は介護保険料が健康保険料から切り離され、市区町村から直接納付書が届くようになります。
健康保険(任意継続・国保)の保険料自体は加入している保険から引き続き請求されます。
まとめ
退職後の健康保険を任意継続と国保のどちらにするかは、退職前の給与水準と退職後の収入見込みによって変わります。
おおまかな目安として、退職前の月給が高め(40万円超)であれば任意継続が得になりやすく、月給が低め(30万円以下)または退職後に収入がほとんどない場合は国保(特に2年目以降)が有利になるケースが多いです。
家族の扶養に入れる場合は保険料が0円になるため最優先で検討してください。
任意継続の申請期限は退職後20日以内と非常に短いため、退職後すぐに保険料の概算比較を行い、判断することをおすすめします。
正確な保険料の試算は協会けんぽ支部(任意継続)または市区町村役場(国保)で無料で行ってもらえます。
- [→ 退職後の健康保険の全体像はこちら(親記事「退職後の健康保険はどうする?」)]
- [→ 扶養に入れる条件の詳細はこちら(退職後 健康保険 扶養 条件・別記事)]
- [→ 退職後の手続き全体はこちら(「定年退職の手続きチェックリスト完全版」)]
- [→ 失業保険との兼ね合いはこちら(既存記事「定年退職後の失業保険完全ガイド」)]
- [→ 退職後の住民税はこちら(既存記事)]

