定年退職を迎えたあと、「失業保険はもらえるのか」「手続きはどうすればいいのか」と不安に感じている方は多いのではないでしょうか。
結論から先にお伝えすると、定年退職後も一定の条件を満たせば失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取ることができます。
しかも、自己都合で退職した場合と比べて、定年退職には大きなメリットがあります。
自己都合退職では給付制限(2025年4月の法改正以降は原則1ヶ月)が発生するのに対し、定年退職の場合は給付制限がなく、7日間の待機期間を経るだけで受給を開始できます。
この違いは、退職後の生活設計において非常に重要なポイントです。
本記事では、定年退職後の失業保険について「いつからもらえるか」「いくらもらえるか」「手続きの全体的な流れ」まで、網羅的に解説します。
待機期間の詳細については定年退職後の失業保険、待機期間はいつから?60歳・65歳別の違いを解説をあわせてご参照ください。
手続きの実務や計算方法については定年退職後の失業保険のもらい方|手続きの流れ・計算方法・ハローワーク活用法で詳しく取り上げています。
65歳以上で定年退職される方には制度が異なりますので、65歳以上の定年退職と失業保険|高年齢求職者給付金との違いを徹底解説をご確認ください。
定年退職後に失業保険はもらえる?まず知っておく基本
定年退職を迎えた方でも、一定の条件を満たしていれば失業保険の受給対象になります。
失業保険は正式には「雇用保険の基本手当」といい、再就職を目指して積極的に活動している人の生活を支えることを目的とした公的な給付制度です。
定年退職後も「次の仕事を探したい」という意思があれば、しっかりと活用できる制度です。
受給できる3つの条件
定年退職後に失業保険を受給するためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
条件①:65歳の誕生日の前々日までに退職していること
失業保険(基本手当)は64歳以下の方が対象です。
民法の規定により誕生日の前日に年齢が1歳加算されるため、65歳の誕生日の前々日までに退職していることが条件となります。
たとえば4月1日生まれの方であれば、3月30日以前に退職している必要があります。
65歳以降に定年退職した場合は、失業保険ではなく「高年齢求職者給付金」という別の制度が適用されます(詳しくは子記事③をご参照ください)。
条件②:退職前の2年間に12ヶ月以上の雇用保険加入期間があること
退職日以前の2年間を振り返って、雇用保険に通算12ヶ月以上加入していることが必要です。
1ヶ月とカウントされるためには、その月に賃金支払いの基礎となる日が11日以上ある(または賃金支払いの基礎となる労働時間が80時間以上ある)ことが条件です。
一般的な会社員として定年まで勤めていた方であれば、この条件は問題なく満たせるケースがほとんどです。
条件③:失業状態で、積極的に再就職活動をしていること
失業保険は「働く意思と能力があるにもかかわらず、仕事に就けない状態」にある方を対象とした制度です。
そのため、定年退職後にすぐ就職先が決まっている場合や、病気・けが等で働けない状態の場合は受給対象になりません。
また「しばらくゆっくりしてから考えたい」という場合も、その時点では失業状態に当たらないため、ハローワークで求職の申し込みをするまで受給開始はできません。
自己都合退職との違い(定年退職は有利)
定年退職と自己都合退職では、失業保険の受け取り方に大きな差があります。
自己都合退職の場合、7日間の待機期間に加えて、2025年4月の法改正以降は原則1ヶ月(改正前は2ヶ月)の給付制限期間が設けられます。
一方、定年退職は「会社都合退職」に準じた扱いとなるため、給付制限はなく、7日間の待機期間を終えれば受給を開始できます。
この差は、退職直後の生活資金の確保という観点から見て、非常に重要な違いです。
定年退職された方は、この有利な条件を最大限に活かすためにも、退職後はできるだけ早めにハローワークへ足を運ぶことをおすすめします。
公務員の方は共済組合が適用される場合があり、制度の内容が異なります。
詳細は各共済組合や人事担当部門にご確認ください。
いつからもらえる?待機期間と給付開始日
定年退職後、実際に失業保険の受給が始まるまでのスケジュールを把握しておくことは、退職後の生活設計において欠かせないポイントです。
定年退職は給付制限なしで7日間の待機期間のみ
ハローワークで求職の申し込みをした日から、7日間は「待機期間」として失業保険が支給されません。
この7日間は、失業の状態にあるかどうかを確認するための期間であり、会社都合退職・定年退職いずれの場合も共通です。
ただし、待機期間中はアルバイトも禁止されていますので、ご注意ください。
自己都合退職では待機期間の後にさらに給付制限(原則1ヶ月)が続くのに対し、定年退職では待機期間(7日間)が終わればすぐに受給が開始されます。
退職日からハローワークへの申し込み、7日間の待機、初回認定日、そして受給開始という流れを事前に把握しておくと、スムーズに手続きを進められます。
待機期間の仕組みや、給付開始日の具体的な計算方法については[子記事①「定年退職後の失業保険、待機期間はいつから?60歳・65歳別の違いを解説」]で詳しく説明しています。
いくらもらえる?受給額の計算方法
失業保険の受給額は「基本手当日額 × 所定給付日数」で計算します。
まずは1日あたりに受け取れる「基本手当日額」を求め、それに受給できる総日数を掛け合わせることで総受給額が算出できます。
基本手当日額の計算式
基本手当日額は、次のステップで計算します。
まず「賃金日額」を算出します。
賃金日額とは、退職日の直前6ヶ月間に実際に支払われた賃金(賞与・退職金・通勤手当などは除く)の合計を180で割った金額です。
計算式で表すと「賃金日額 = 離職前6ヶ月の賃金総額 ÷ 180」となります。
次に、賃金日額に給付率を掛け合わせます。
60歳から64歳の定年退職者の場合、給付率は45〜80%の範囲内で、賃金が低い方ほど高い給付率が適用される仕組みです。
計算式は「基本手当日額 = 賃金日額 × 給付率(45〜80%)」となります。
なお、基本手当日額には年齢ごとに上限額が設定されており、厚生労働省の発表によると2025年8月1日以降、60歳以上65歳未満の上限額は1日7,623円です(毎年8月に改定されるため、最新情報は厚生労働省の公式サイトでご確認ください)。
60歳以降の給付率と具体的な計算例
60歳未満の方に適用される給付率が「50〜80%」であるのに対し、60〜64歳の定年退職者には「45〜80%」が適用されます。
これは、高年齢者に対して年金の受給も視野に入っていることを考慮した制度上の設計によるものです。
具体的なイメージとして、月給30万円(賞与・退職金除く)で定年退職した場合を考えてみましょう。
賃金日額は「300,000円 × 6ヶ月 ÷ 180 = 10,000円」と算出されます。
給付率は賃金日額によって変動しますが、おおよそ50〜60%程度が適用されるケースが多く、この場合は1日あたり5,000〜6,000円程度の基本手当日額となります。
ただし個人の状況により大きく変わるため、正確な金額はハローワークで確認することをおすすめします。
計算の仕組みや具体的な試算例については[子記事②「定年退職後の失業保険のもらい方|手続きの流れ・計算方法・ハローワーク活用法」]でさらに詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
受給期間はどのくらい?給付日数の目安
失業保険を受け取れる期間(給付日数)は、退職理由と雇用保険への加入期間によって決まります。
定年退職は会社都合退職や特定受給資格者とは扱いが異なり、「一般の離職者」に分類されます。
そのため、給付日数は加入期間に応じて90〜150日となります。
年齢・雇用保険加入年数別の給付日数一覧
定年退職後に失業保険を受給できる日数は、雇用保険の加入期間によって以下のように決まります。
| 雇用保険加入期間 | 給付日数 |
|---|---|
| 10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
多くの定年退職者の場合、雇用保険への加入期間は20年以上となるため、150日(約5ヶ月分)の給付を受けられるケースが一般的です。
60歳で定年退職した場合、基本手当日額が6,000円であれば総受給額は最大で「6,000円 × 150日 = 90万円」という試算になります。
なお、再就職が決まった時点で受給は終了しますが、早期に再就職すると「再就職手当」が受け取れる場合もあります。
受給期間延長制度とは
失業保険には、原則として「退職翌日から1年以内」という受給期間の制限があります。
手続きが遅れて1年を過ぎると、たとえ給付日数が残っていても支給されませんので注意が必要です。
ただし、定年退職の場合は特別な延長制度があります。
60歳以上で定年退職し、「しばらくの間は休養したい」という方は、申し出ることで受給期間を最大2年間延長することができます。
この場合、退職翌日から2ヶ月以内にハローワークへ申請する必要がありますので、「しばらく求職活動はしないが、後から受給したい」という方は早めに手続きをしておくとよいでしょう。
病気・けが・介護などの理由で働けない期間が生じた場合も、受給期間の延長申請が可能です。
この場合は、働けなくなった日の翌日から早期に申請することが求められます。
詳しくはハローワークの窓口にご相談ください。
年金と同時に受け取れる?年金との兼ね合い
定年退職後に「年金ももらいながら失業保険も受け取れるの?」と疑問に思う方は多いのですが、これは退職時の年齢によって扱いが大きく異なります。
64歳以下と65歳以上で扱いが違う
64歳以下で定年退職した場合
60歳から64歳の間に定年退職し、ハローワークで失業保険(基本手当)の受給手続きをすると、受給期間中は特別支給の老齢厚生年金が全額支給停止となります。
これは年金制度と雇用保険制度の間の調整規定によるもので、両方を同時に受け取ることはできない仕組みになっています。
ただし、失業保険の受給が終了した後は年金の支給が再開されるため、最終的な受取総額はハローワークに相談しながら確認するとよいでしょう。
なお、老齢基礎年金の繰上げ受給をしている方については、基礎年金と失業保険を同時に受け取れるケースがあるため、個別にご確認ください。
65歳以上で定年退職した場合
65歳以上で定年退職した場合は、失業保険ではなく「高年齢求職者給付金」という一時金の制度が適用されます。
この高年齢求職者給付金は老齢年金との調整の対象外であるため、年金を受け取りながら同時に受給することが可能です。
退職後の収入という観点では、65歳以上では年金と給付金を両方受け取れる点が大きなメリットと言えます。
65歳以上の制度の詳細や、64歳と65歳での給付の違いについては[子記事③「65歳以上の定年退職と失業保険|高年齢求職者給付金との違いを徹底解説」]で詳しく解説しています。
受給中にアルバイトはできる?副業は?
失業保険を受給しながら働くことは、一定のルールの下で認められています。
ただし、働き方によっては受給額の調整や給付停止になる場合もあるため、正しいルールを把握しておくことが重要です。
週20時間以内・申告のルールを守ること
失業保険の受給中にアルバイトや副業をする場合、週の労働時間が20時間未満であることが条件です。
週20時間以上働いた場合は「就職(または就労)」とみなされ、その日数分の失業保険の支給が止まることがあります。
また、1日あたりの賃金が一定額を超えた場合も、その日分の基本手当の支給が減額される仕組みがあります。
最も重要なのは、アルバイトや副業をした際は必ず「失業認定申告書」に正直に申告することです。
申告しないまま働いた場合は不正受給となり、受け取った金額の返還に加えて、最大3倍の金額を一括納付するよう求められることがあります。
定年退職後のアルバイトを検討している方は、事前にハローワークで確認した上で始めることをおすすめします。
副業や在宅ワーク、自営業の準備活動についても同様のルールが適用される場合がありますので、判断に迷う場合はハローワークに相談してください。
再雇用・継続雇用を選んだ場合の失業保険
定年退職後に同じ会社で再雇用・継続雇用される形で引き続き働く場合は、失業保険の受給対象になりません。
失業保険は「仕事を失って再就職を目指している状態」にある方を支援する制度であるため、雇用関係が継続されている限り受給することはできないという仕組みです。
同じ会社で再雇用された場合の注意点
定年を迎えた後に雇用継続制度を利用して同じ会社で働き続ける方は、その期間中に失業保険を受け取ることはできません。
ただし、再雇用後に最終的に退職した場合は、その時点から新たに受給資格が発生する可能性があります。
一方、再雇用によって賃金が60歳時点の75%未満に下がった場合は、「高年齢雇用継続給付」という別の給付を受け取れる場合があります。
2025年4月以降は制度改正により支給率が最大10%に変更されましたが、賃金の低下をある程度補うための制度として活用できます。
休職のまま定年退職を迎えた方については、状況によって受給資格の判断が異なる場合がありますので、ハローワークに個別にご相談ください。
手続きの全体の流れ(概要)
定年退職後の失業保険の手続きは、主にハローワークで行います。
ここでは全体的な流れを把握していただくことを目的として、おおまかなステップをご紹介します。
退職前にやること(離職票・雇用保険の確認)
退職前に会社に対して「離職票の発行」を依頼しておくことが重要です。
離職票(離職票-1と離職票-2の2枚)は、ハローワークで受給手続きをする際に欠かせない書類です。
通常、退職後10日前後で会社から郵送されますが、2025年1月からはマイナポータルを通じてオンラインで受け取ることも可能になりました。
また、雇用保険被保険者証を手元に準備しておきましょう。
紛失した場合は会社に問い合わせるか、ハローワークで再発行できます。
退職前から受給期間の延長申請を検討されている方は、申請期限(退職翌日から2ヶ月以内)を念頭において早めに動くことをおすすめします。
手続きの具体的な流れや、認定日のスケジュール管理、ハローワークでの実務については[子記事②「定年退職後の失業保険のもらい方|手続きの流れ・計算方法・ハローワーク活用法」]で詳しく説明しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 扶養に入ると失業保険は受け取れなくなりますか?
A. 失業保険を受給している期間中でも受給自体は続きますが、社会保険上の扶養に入れるかどうかは受給額によって変わります。
基本手当日額が3,612円以上(年間換算で約130万円相当)の場合、社会保険の扶養に入ることができないとされています。
受給中は家族の扶養から外れて国民健康保険に加入し、受給終了後に再度扶養に入り直すという流れが一般的です。
詳細は各健康保険組合やハローワークに確認してください。
Q. 退職後の健康保険はどうすればよいですか?
A. 定年退職後の健康保険の選択肢は、大きく3つあります。
1つ目は「任意継続被保険者制度」を利用して在職中の健康保険を最大2年間継続する方法、2つ目は国民健康保険に加入する方法、3つ目は家族の扶養に入る方法です。
保険料の負担額はそれぞれの状況によって異なるため、退職前に概算を比較しておくと安心です。
詳しい内容については[退職後の健康保険の選び方(別記事)]をご参照ください。
Q. 申請期限はいつまでですか?
A. 失業保険の受給期間は、退職翌日から1年以内です。
この1年の期間を過ぎると、たとえ給付日数が残っていても受給できなくなります。
定年退職後にすぐ求職活動をしない場合でも、受給期間の延長申請(退職翌日から2ヶ月以内に申請)をしておくことをおすすめします。
Q. 再就職手当はもらえますか?
A. 失業保険の受給資格がある方が、給付日数の3分の1以上を残した状態で再就職した場合、再就職手当を受け取ることができます。
残日数が多いほど手当額も高くなる仕組みで、残日数が3分の2以上なら基本手当日額×残日数×70%、3分の1以上3分の2未満なら60%が支給されます。
受給するには一定の条件を満たす必要がありますので、詳細はハローワークに確認してください。
Q. 職業訓練を受けることはできますか?
A. 失業保険の受給中にハローワークが紹介する公共職業訓練を受けることができます。
受講中は給付日数が終了した後も「訓練延長給付」として基本手当が延長される場合があり、スキルアップと生活支援を同時に受けられる制度です。
定年退職後に新しい仕事を目指して学び直しをしたい方にとって、有効な選択肢の一つと言えるでしょう。
詳細はハローワークの窓口でご相談ください。
Q. 定年退職後にしばらく休養してから求職活動したいのですが、失業保険はもらえますか?
A. はい、受給期間の延長申請をすることで、一定期間の休養後に求職活動を開始してからでも受給できます。
60歳以上の定年退職者は、退職翌日から2ヶ月以内にハローワークで延長申請をすれば、最大2年間受給期間を延ばすことができます。
ただし、延長できるのは受給期間であって給付日数は変わりません。
休養期間が終わってから求職の申し込みをすることで、その後に通常通り受給が始まります。
まとめ
定年退職後の失業保険について、受給条件・待機期間・受給額・給付日数・年金との兼ね合いから手続きの概要まで解説しました。
定年退職の最大のメリットは、自己都合退職とは異なり給付制限がなく、7日間の待機期間を経るだけで受給を開始できる点です。
また、60歳以上の定年退職者には受給期間を最大2年間延長できる特例もあり、退職後の生活リズムに合わせた活用が可能です。
受給額は退職前の賃金をもとに計算され、60〜64歳の方の給付率は45〜80%となっています。
雇用保険加入期間が20年以上であれば、給付日数は最大150日となります。
年金との兼ね合いについては、64歳以下の方は失業保険受給中に特別支給の老齢厚生年金が支給停止となる点に注意が必要です。
65歳以上の方は高年齢求職者給付金として年金と同時受給が可能ですが、制度の内容が異なりますので子記事③をご確認ください。
退職後はできるだけ早くハローワークへ赴き、申請期限(退職翌日から1年以内)を守って手続きを進めることが大切です。
不明な点はハローワークの窓口に気軽にご相談いただけます。
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