60代に必要な睡眠時間はどのくらい?質の良い眠りを作るための習慣

「最近、眠りが浅くなった気がする」
「夜中に何度も目が覚めてしまう」
「いったい何時間寝れば十分なのだろう」
——そんな悩みを抱えている60代の方は、決して少なくありません。
定年前後は、仕事のストレスや生活の変化が重なりやすい時期でもあります。
加齢とともに睡眠が変化するのは自然なことですが、正しい知識を持ち、適切な対策を取ることで、睡眠の質を整えることは十分に可能です。
この記事では、60代に必要な睡眠時間の目安や、加齢による睡眠変化のメカニズム、そして今日からできる睡眠改善の習慣を、根拠をもとに丁寧に解説します。
60代に必要な睡眠時間の目安
「8時間寝なければいけない」と思い込んでいる方がいるとしたら、その認識は少し見直すとよいかもしれません。
厚生労働省が2024年に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人(概ね20〜59歳)には6時間以上の睡眠を目安として推奨しています。
一方、高齢者については「睡眠時間」よりも「床上時間(寝床に入っている時間)」を重視すべきとされており、床上時間が8時間以上にならないことを目安とすることが示されています。
より具体的には、60歳以上を対象にした調査データでは、十分な睡眠時間として「6時間以上8時間未満」が目安として示されています。
つまり、60代の方にとっては6〜7時間程度の睡眠が現実的な目標といえるでしょう。
重要なのは、睡眠時間の長さだけではありません。
同ガイドでは「睡眠休養感(眠りによって休んだという実感)」を得られているかどうかも大切な指標として挙げられています。
たとえ6時間でも、日中に強い眠気がなく、すっきりと活動できているなら、それは十分な睡眠と考えてよいとされています。
また、高齢者が長時間眠りすぎることにも注意が必要です。
9時間を超える睡眠は、6〜9時間の場合と比較して認知症の発症リスクが高まるという研究報告もあります。
「寝られるだけ寝ればいい」というわけではなく、質と量のバランスが大切だといえます。
加齢で睡眠が変わる理由
「昔はぐっすり眠れたのに、なぜ今はこんなに眠りが浅いのだろう」と感じている方も多いことと思います。
それは体の衰えではなく、加齢にともなう自然な変化です。
ここでは、そのメカニズムを3つの観点から整理します。
眠りが浅くなるメカニズム
睡眠には、深い眠りである「ノンレム睡眠」と、浅い眠りである「レム睡眠」が交互に繰り返されます。
加齢とともに、このノンレム睡眠のうち最も深い段階が減少し、全体的に浅い眠りの割合が増えることが知られています。
この変化の背景にあるのが、「メラトニン」と呼ばれる睡眠ホルモンの分泌低下です。
メラトニンは脳の松果体から分泌され、夜間に増加することで自然な眠りへと体を導く働きをしています。
厚生労働省のeヘルスネットをはじめとする信頼性の高い情報源によれば、メラトニンは加齢とともに分泌量が減少し、50代以降では10代のピーク時の10分の1以下になるとも報告されています。
分泌量が減ることで夜間の眠りが浅くなり、ちょっとした物音でも目が覚めやすくなります。
「以前と比べて、なんとなく疲れが取れにくい」と感じる方には、この変化が影響していることが少なくないといえます。
早起き・早寝になりやすい理由
年を重ねると、就寝時刻や起床時刻が若い頃より前倒しになる傾向があります。
これは体内時計(概日リズム)の加齢変化によるもので、医学的には「睡眠相前進」と呼ばれる現象です。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の解説によれば、体内時計は加齢によってリズムの振れ幅が小さくなり、昼と夜のメリハリがつきにくくなるとされています。
朝日を浴びたり、食事の時間を整えたりすることが体内時計のリセットに役立ちますが、加齢とともにその調整機能も緩やかに低下していきます。
「夜9時を過ぎると眠くなってしまう」「朝4時や5時に自然と目が覚める」という経験がある方は、加齢による体内時計の変化が起きているサインかもしれません。
これ自体は病気ではなく、自然なことと受け止めてよいといえます。
夜中に目が覚めやすくなる理由
60代以降に多い睡眠の悩みとして、「夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)」があります。
これにもいくつかの理由があります。
まず、前述のとおり深い眠りが減ることで、外からの刺激に反応しやすくなります。
また、加齢とともに頻尿(夜間頻尿)が増える方も多く、トイレのために目が覚めることも珍しくありません。
さらに、カフェインやアルコールの代謝速度が若い頃より遅くなるため、同じ量を摂取しても夜の睡眠に影響しやすくなります。
「昔は夜にコーヒーを飲んでも平気だったのに」という変化がある方は、体の代謝機能の変化が関係しているといえるでしょう。
定年後に睡眠が乱れやすい理由
加齢による体の変化に加えて、定年退職という大きな環境変化も、60代の睡眠に影響を与えます。
「退職してからかえって眠れなくなった」という声は、決して珍しくありません。
生活リズムの変化
通勤がなくなり、毎日のスケジュールが自由になること自体はうれしいことです。
しかし、それまで60年以上にわたって続けてきた「決まった時間に起きて、決まった時間に活動する」というリズムが突然なくなることで、体内時計が乱れやすくなります。
起床時間が日によってバラバラになったり、特に用がないからと昼過ぎまで寝ていたりすると、夜になってもなかなか眠くならず、就寝時刻が後ろ倒しになる悪循環に陥ることがあります。
また、日中に何度もうとうとするような昼寝が増えると、夜間の睡眠が浅くなる要因になります。
定年後の生活リズムの整え方全般については、「定年後の過ごし方完全ガイド」でも詳しく取り上げています。
運動量の低下
現役時代には通勤や職場での移動など、意識しなくても一定の体を動かす機会がありました。
定年後はその機会が減り、気づかないうちに1日中ほとんど体を動かさないという状態になりやすくなります。
適度な運動は、体にほどよい疲労をもたらし、夜間の入眠をスムーズにする効果があるとされています。
また、日光を浴びながらウォーキングをすることで、体内時計のリセットとメラトニンの原料となるセロトニン分泌の促進が期待できます。
運動不足が続くと、こうした体のリズムを整えるきっかけが失われ、睡眠が乱れやすくなります。
社会的なつながりの減少
仕事をしていた頃は、職場での人間関係や役割が、生活の張りやストレス発散の場になっていた面もあります。
定年後に社会とのつながりが薄れると、孤独感や無力感を感じる方も少なくありません。
こうした精神的なストレスは、自律神経のバランスを乱し、睡眠の質を下げる要因になります。
「眠れない→気持ちが落ち込む→ますます眠れない」という悪循環に陥らないためにも、趣味や地域活動、交友関係を通じて社会とのつながりを保つことが大切だといえます。
睡眠の質を上げるための習慣
加齢による変化は完全には防げませんが、生活習慣を整えることで睡眠の質を高める余地は十分にあります。
ここでは、特に60代の方に取り入れやすい習慣を5つご紹介します。
起きる時間を毎日一定にする
睡眠の質を上げるうえで、最もシンプルで効果的とされているのが「起床時間を固定すること」です。
就寝時間が多少前後しても、毎朝同じ時間に起きるようにすることで、体内時計が安定しやすくなります。
休日だからといって大幅に起床時間を遅らせることは、体内時計のズレを招き、かえって週明けの眠りが乱れる原因になりえます。
まずは「毎朝同じ時間に起きる」という習慣を1週間続けてみることから始めてみましょう。
日中に適度な運動を取り入れる
運動は、睡眠の質を改善する生活習慣として多くの専門機関が推奨しています。
特に、ウォーキングや体操などの有酸素運動を日中(午前から夕方にかけて)に行うことが効果的とされています。
朝に日光を浴びながら歩くことで、メラトニンの原料となるセロトニンが分泌され、夜の眠りにつながりやすくなります。
1日30分程度のウォーキングからでも、体内リズムの安定に役立つとされています。
なお、就寝直前の激しい運動は交感神経を刺激して眠りを妨げることがあるため、就寝の2〜3時間前を目安に終えておくとよいでしょう。
寝る前のスマホ・テレビを控える
スマートフォンやタブレット、テレビから発せられる「ブルーライト」は、メラトニンの分泌を抑制し、脳が覚醒した状態を維持してしまいます。
就寝の1〜2時間前からはこれらの画面を見ることを控えると、自然な眠気が生じやすくなるとされています。
就寝前のルーティンとして、読書、軽いストレッチ、温かいお風呂などリラックスできる行動に切り替えることで、体が「寝る準備をする時間」と認識しやすくなります。
部屋の照明も、就寝1〜2時間前には暖色系の間接照明などに切り替えると、入眠がよりスムーズになるといえます。
寝室の温度・光・音の環境を整える
快適な睡眠環境を整えることも、眠りの質に大きく影響します。
寝室の温度については、夏場は26〜28度程度、冬場は16〜19度程度が快眠に適しているとされており、湿度は50〜60%前後を目安にするとよいといえます。
光については、寝室をできるだけ暗くすることが基本です。
カーテンの隙間からの光が気になる場合は遮光カーテンを活用し、廊下の電気などの漏れ光にも注意するとよいでしょう。
音については、外の騒音が気になる場合は耳栓やホワイトノイズ(自然音など)を活用することも一つの方法です。
カフェイン・アルコールの摂取タイミングに気をつける
カフェインは覚醒作用を持ち、睡眠の妨げになることが知られています。
厚生労働省のeヘルスネットでは、就寝の数時間前からカフェインを含む飲み物を控えることを推奨しており、敏感な方は就寝5〜6時間前を目安にするとよいとされています。
コーヒーや紅茶だけでなく、緑茶・ウーロン茶・コーラ・チョコレートにもカフェインが含まれているため、夕食後は麦茶やルイボスティーなどカフェインを含まない飲み物に切り替えることをおすすめします。
また、高齢になるとカフェインの代謝が遅くなるとされており、若い頃と同じ感覚で夕方以降に飲んでいると影響が出やすくなる点も意識しておきましょう。
アルコールについても注意が必要です。
お酒は一時的に寝つきを良くする感覚がありますが、深いノンレム睡眠を減らし、夜中に目が覚めやすくする作用があることが報告されています。
「寝酒で眠りやすくなる」という習慣は、長い目で見ると睡眠の質を低下させることにつながるとされています。
こんな症状があれば医師に相談を
加齢や生活習慣の変化による睡眠の変化は、多くの場合、生活習慣の見直しで改善が期待できます。
しかし、次のような症状が続く場合は、自己判断で解決しようとせず、医療機関(内科・睡眠外来など)への相談を検討してください。
なかなか眠れない状態(入眠困難)や夜中に何度も目が覚める状態が2週間以上続いており、日中の生活に支障をきたしている場合は、受診の目安になります。
また、日中に強い眠気があって仕事や趣味の活動が困難な場合、いびきが激しい・呼吸が止まっていると指摘された場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性もあります。
睡眠時無呼吸症候群は50代以降に有病率が増加するとされており、放置すると高血圧や心疾患のリスクに影響するとも報告されています。
「年のせいだから仕方ない」と片付けず、気になる症状があれば早めに専門家に相談することが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 60代は何時間寝れば十分ですか?
個人差はありますが、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、60歳以上の十分な睡眠時間の目安として6時間以上8時間未満が示されています。
睡眠時間の長さだけでなく、目覚めたときの疲れのなさや日中の活動に支障がないかどうかも参考にして、ご自身に合った時間を見つけていくとよいでしょう。
Q. 夜中に目が覚めるのは病気ですか?
加齢にともない深い睡眠の割合が減り、中途覚醒が増えるのは自然な変化です。
目が覚めてもすぐにまた眠れる、日中に大きな支障がないという場合は、必ずしも病気とはいえません。
ただし、目が覚めたあとなかなか眠れない状態が2週間以上続く場合や、日中に強い眠気・疲労感が続く場合は、医師への相談を検討してください。
Q. 昼寝をしても大丈夫ですか?何分くらいが適切ですか?
適度な昼寝は疲労回復に役立つとされており、60代の方には上手に活用することが勧められています。
時間の目安は20〜30分程度とされており、午後3時以降の昼寝は夜間の睡眠に影響しやすいため避けるとよいでしょう。
なお、1時間以上の長い昼寝は夜の睡眠の質を下げる可能性があるとも指摘されています。
Q. 睡眠の質を上げるのに効果的な運動はありますか?
ウォーキングや軽いジョギング、水中ウォーキング、ストレッチなどの有酸素運動が、睡眠改善に効果的とされています。
特に日中に日光を浴びながら体を動かすことで、体内時計の安定とセロトニン分泌の促進が期待できます。
就寝の2〜3時間前を目安に終えるよう心がけると、入眠をスムーズにしやすくなるでしょう。
Q. アルコールは睡眠に良いですか?
「寝酒」として少量のアルコールを飲む習慣のある方も多いと思いますが、アルコールは睡眠にとって決してプラスとはいえません。
入眠自体はスムーズになることがある一方で、深いノンレム睡眠を減らし、中途覚醒を増やすことが報告されています。
習慣的な寝酒は睡眠の質を長期的に低下させる可能性があるとされており、少量でも就寝直前の飲酒は控えることが望ましいといえます。
Q. 体内時計を整えるためにできることはありますか?
最も効果的とされているのが、「毎朝同じ時間に起きて日光を浴びること」です。
朝の光を浴びると体内時計がリセットされ、その14〜16時間後にメラトニンが自然に分泌されて眠気が生じる仕組みになっています。
起床後すぐにカーテンを開け、朝日を浴びることを習慣化するだけでも、体内リズムの安定につながるといわれています。
まとめ
60代の睡眠の変化は、加齢によって自然に起こることです。
「昔と比べて眠れなくなった」と感じることも、多くの場合は体の正常な変化の一部といえます。
大切なのは、その変化を受け入れながら、できることを一つずつ積み重ねていくことです。
起床時間を整える、日中に体を動かす、夕方以降のカフェインを控える——どれも難しくない小さな習慣ですが、続けることで確実に眠りの質が変わってくる可能性があります。
「8時間寝なければ」という固定観念を手放し、自分のリズムに合った睡眠を大切にしてみてください。
今日のほんの少しの工夫が、明日の朝の気持ちよさにつながるはずです。
定年後の生活全般の整え方については、こちらの記事もあわせてご参照ください。

