定年が近づくにつれ、「自分はこれからどうなるんだろう」という漠然とした不安を感じ始める男性は少なくありません。
収入、肩書き、職場での役割。
これまで当たり前にあったものが、定年を境に一変します。
この記事では、定年後の仕事選びで多くの男性が直面する現実と、実際に向いている仕事・選び方のポイントを解説します。
定年後も働く男性は増えているが、現実は厳しい
「定年後、自分はどうなるんだろう」と、漠然とした不安を感じ始めている方は多いと思います。
定年後の働き方は、以前と比べて選択肢が広がっている一方で、知っておかないと痛い目を見る現実もあります。 まずは数字でその実態を確認しておきましょう。
60代男性の就業率は高いが「働かざるを得ない」面もある
総務省「労働力調査(2024年)」によると、男性の就業率は60〜64歳で84.0%、65〜69歳でも62.8%となっています。 つまり60代前半の男性の実に8割以上が、定年後も働き続けているのが現実です。 さらに2024年の65歳以上の就業者数は930万人と、21年連続で過去最多を更新しています。 一方で、Job総研「2024年 定年に関する意識調査」によると、定年後に経済的な不安を抱えている人は82.3%にのぼり、経済不安を解消するために定年後も働くと回答した人は82.5%に達しています。 「やりがいのため」「体のため」という理由を大きく上回るこの数字は、定年後の就労が単なる生きがいではなく、生活を守るための必要な選択になっている現実を映し出しています。
再雇用後の年収は平均44.3%減という現実
多くの男性が定年後に選ぶのが、元の会社にそのまま残る「再雇用制度」です。 慣れた職場で、これまでの仕事を続けられるという安心感がある一方で、待遇面では厳しい現実が待っています。 パーソル総合研究所の調査によると、定年後に再雇用された人の約9割が定年前より年収が下がっており、平均の減少率は44.3%にのぼります。 さらに、再雇用者の約半数は年収が50%以上、つまり半分以下になっているというデータもあります。 仕事の内容や勤務時間はほとんど変わらないのに、年収だけが大幅に下がるという状況は、経済的な問題にとどまらず、気持ちの面でも大きなダメージになる方が少なくありません。 定年後の仕事選びを考えるにあたって、この現実をまず正面から受け止めておくことが、その後の判断を冷静にする第一歩になります。
男性が定年後の仕事で直面しやすい3つの壁
定年後に新しい仕事を探し始めた男性の多くが、思いがけない壁にぶつかります。 スキルや経験がないわけではないのに、なぜかうまくいかない。 そう感じる背景には、男性特有のいくつかのパターンがあります。 事前に知っておくだけで、対処できることも多いため、ここで整理しておきましょう。
肩書きがなくなることへの戸惑い
現役時代、「○○株式会社 部長」という肩書きは、仕事の場面だけでなく、自分という人間を支える大きな柱でもありました。 定年を境にその肩書きがなくなると、「自分は何者なのか」という感覚に戸惑う男性は少なくありません。 特に大企業で長年キャリアを積んできた方ほど、この感覚は強く出る傾向があります。 会社という環境の中だけで通用してきたルールや立ち位置が通じなくなることへの戸惑いが、定年後の仕事探しを難しくする原因のひとつになっています。 「元管理職」という過去の肩書きにとらわれず、今の自分がどんな価値を提供できるかに目を向け直すことが、新しい働き方への第一歩になります。
収入ダウンと自尊心のギャップ
再雇用で平均44.3%の収入ダウンという現実は、経済的な問題にとどまりません。 「同じ仕事をしているのに、なぜこんなに給料が下がるのか」という理不尽さは、長年仕事に誇りを持って取り組んできた男性ほど、強い心理的なダメージになりやすいのです。 この「自尊心のギャップ」をうまく処理できないまま新しい仕事を始めると、職場での態度や同僚との関係に影響が出ることもあります。 定年後の収入は「今の生活に必要な金額」として割り切って考えること、そして年金との組み合わせで全体像を捉え直すことが、気持ちの切り替えには効果的です。 「以前いくらもらっていたか」ではなく「今の暮らしにいくら必要か」という軸で考えると、仕事選びの基準も変わってきます。
体力・健康面での変化を見くびりがち
「まだまだ元気だから大丈夫」と考えて体力を要する仕事を選んだものの、数ヶ月後に体が悲鳴をあげるというケースは、定年後の就労でよくある失敗のひとつです。 男性は特に、体力の衰えを認めることへの抵抗感が出やすく、自分の限界を過小評価しがちな傾向があります。 50代後半から60代にかけては、疲れが翌日以降に持ち越されやすくなり、回復に時間がかかるようになります。 現役時代にこなしていた業務量をそのまま維持しようとすると、体への負担が予想以上に大きくなることがあります。 定年後の仕事を選ぶ際には、「今の体力でできるか」だけでなく「1年後・2年後も続けられるか」という視点で考えることが大切です。
定年後の男性に向いている仕事5選
ここでは、定年後の男性が実際に多く活躍している職種を5つ紹介します。 未経験から始めやすいものから、これまでのキャリアを活かせるものまで幅広く取り上げています。 自分の体力・経験・求めるものに合わせて、参考にしてみてください。
警備員・施設巡回スタッフ
定年後の男性に最も人気の高い職種のひとつが、警備員や施設巡回スタッフです。 商業施設や公共施設の出入口管理、夜間のマンション巡回、工事現場での交通誘導など、働く場所や形態はさまざまです。 資格や特別なスキルは不要で、シニア歓迎の求人が豊富なため、定年後に初めて別の仕事に挑戦する方にも入りやすい環境が整っています。 体を適度に動かしながら働けること、一人で黙々と取り組める場面が多いことも、定年後の男性に向いている理由として挙げられます。 ただし、長時間立ちっぱなしの現場もあるため、応募前に実際の業務内容を確認しておくことをおすすめします。
製造・工場の軽作業スタッフ
製品の梱包や仕分け、部品の検品など、工場や倉庫での軽作業は、体力的な負担が比較的少なく、定年後から始めやすい仕事のひとつです。 指示に従って作業を進める仕事が多いため、職場の人間関係に余計なエネルギーを使わずに済む点も、定年後の働き方として選ばれる理由になっています。 派遣やパートの求人が多く、週3〜4日・1日5〜6時間といった短時間勤務にも対応している職場が増えています。 「体は動かしたいが、激しい作業は避けたい」という方に特に向いています。
ドライバー(送迎・配送)
運転が好きな方、長年クルマに親しんできた方には、ドライバーの仕事は定年後の選択肢として有力です。 高齢者施設の送迎ドライバーや、宅配・軽貨物の配送ドライバーは、シニアの就業者が多く、慢性的な人手不足が続く分野でもあります。 自分のペースで進められる仕事が多く、体を動かしつつも重労働にはなりにくい点が魅力です。 ただし、安全運転が大前提の仕事であるため、視力や健康状態に自信がある方向けの職種です。 また施設送迎の場合は二種免許が不要な場合がほとんどですが、タクシードライバーとして働く場合は二種免許が必要になります。
技術・知識系のフリーランス・顧問
現役時代に専門的なキャリアを積んできた方には、その経験を活かしたフリーランスや顧問という働き方もあります。 製造業・建設業・IT・会計・人事など、特定の分野で長年培ってきたノウハウは、中小企業や新興企業にとって非常に貴重なものです。 週1〜2日、オンラインでのアドバイスのみなど、自分のペースに合わせて柔軟に設計できる点が大きな強みです。 収入水準も他の定年後の仕事と比べて高めになりやすく、「報酬を下げたくない」「これまでの経験を活かしたい」という方に向いています。 ただし、案件を自分で開拓する必要があるため、現役時代から人脈や実績を整理しておくことが成功の鍵になります。
マンション管理員・フロントスタッフ
定年後の男性の就職先として、近年特に人気が高まっているのがマンション管理員です。 清掃や設備点検、居住者からの問い合わせ対応など、仕事の内容は多岐にわたりますが、激しい肉体労働はほとんどなく、自分のペースで業務を進めやすい環境が整っています。 社会人として長年磨いてきたコミュニケーション能力や、几帳面さ・責任感といった資質が直接活きる仕事でもあります。 住み込み型の求人も一部あり、生活費を抑えながら働きたい方にとっても選択肢のひとつになります。 未経験から応募できる求人が多い一方で、管理業務主任者などの資格があると採用時に有利になる場合もあります。
仕事選びで後悔しないための3つのポイント
定年後の仕事選びで失敗する男性に共通しているのは、「とりあえず動いてみた」という行動パターンです。 焦りから条件を十分に確認しないまま応募してしまったり、現役時代の感覚のまま体力を過信してしまったりするケースが少なくありません。 次の3つのポイントを事前に整理しておくだけで、そういったミスマッチを大きく減らすことができます。
①「自分が何のために働くのか」を最初に決めておく
仕事探しを始める前に、まず「なぜ働くのか」を自分なりに整理しておくことが大切です。 収入を確保したいのか、社会とのつながりを保ちたいのか、生活にメリハリをつけたいのか。 この目的によって、優先すべき条件がまったく変わってきます。 たとえば収入が主な目的なら、時給・勤務時間・交通費支給の有無が重要な選択基準になります。 一方で社会参加や生きがいが目的なら、収入よりも職場の雰囲気や仕事内容への関心度の方が優先度は高くなります。 目的があいまいなまま仕事を始めると、慣れた頃に「なんのために働いているのかわからなくなってきた」という感覚に陥りやすくなります。 大まかで構いません。 「年金に月5万円を足したい」「週3日は外に出て人と話したい」といった具体的なイメージを持っておくだけで、仕事選びの判断がぐっとしやすくなります。
②現役時代のプライドをいったん脇に置く
定年後の仕事選びで男性が最もつまずきやすいのが、この点です。 「元管理職だから」「大手に長年勤めていたから」という意識が無意識のうちに働き、新しい職場で一から覚えることへの抵抗感が出てしまうことがあります。 しかし現実には、定年後の求人の多くはパートや非常勤であり、応募者の過去の肩書きより「今何ができるか・職場になじめるか」が重視されます。 現役時代の実績は大切な財産ですが、新しい職場では「新入り」として謙虚にスタートできる姿勢が、長く続けられる仕事に巡り会うための近道になります。
③「1年後も続けられるか」で仕事を選ぶ
定年後の仕事を選ぶとき、「今の自分にできるか」を基準にしがちですが、より大切なのは「1年後・2年後も無理なく続けられるか」という視点です。 60代前半はまだ体力に余裕があると感じていても、毎日の積み重ねで疲労が蓄積し、半年後には思うように動けなくなるケースは珍しくありません。 応募前には、1日の業務の流れ・立ち仕事の時間・繁忙期の状況を確認し、可能であれば職場見学を申し込んでみることをおすすめします。 「少し物足りないかな」と感じるくらいの負荷からスタートして、慣れてきたら調整するという進め方が、定年後の仕事を長続きさせるコツです。
まとめ
定年後の仕事選びは、現役時代の延長線上で考えると行き詰まりやすくなります。
収入は下がり、肩書きはなくなり、体力も以前とは変わっていく。
その現実を正面から受け止めた上で、「今の自分に合った働き方」を探すことが、定年後を充実させるための出発点になります。
警備・軽作業・ドライバー・マンション管理員・フリーランス顧問。
それぞれに向き不向きはありますが、共通して言えるのは「長く無理なく続けられるかどうか」が最も大事な判断基準だということです。
現役時代の収入や立場と比べてしまうと、どんな仕事も物足りなく見えてしまいます。
大切なのは過去と比べることではなく、今の自分の生活・体力・目的に正直に向き合うことです。
まずは「週に何日働けるか」「何のために働くのか」を自分なりに整理することから始めてみてください。
その軸が定まれば、仕事選びの迷いはずいぶん小さくなります。
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