退職すると、税金の仕組みは在職中とは大きく変わります。
会社が行っていた年末調整がなくなるため、自分で確定申告をしなければならないケースが生じます。
一方で、確定申告は「やらなければならない義務」だけではありません。
年の途中で退職した方の多くは、申告をすることで払いすぎた税金が戻ってくる可能性があります。
退職後の確定申告で押さえておきたいポイントは、必要なケースと不要なケースの整理、還付申告の活用、そして退職後に新たに使える控除の3つです。
この記事では、それぞれを順番に解説します。
なお、確定申告をすると住民税も自動的に申告したことになりますが、住民税の仕組みや払い方の詳細については退職後の住民税についてはこちらをご覧ください。
退職後に確定申告が必要なケース・不要なケース
退職後に確定申告が必要かどうかは、退職のタイミングや収入の種類によって異なります。
まず自分が該当するかどうかを確認することが、退職後の税務で損をしない第一歩です。
確定申告が必要なケース
以下のいずれかに当てはまる場合は、確定申告が必要です。
年の途中で退職して年末調整を受けていない場合は、申告が必要です。
会社員は毎年12月に年末調整で税額が精算されますが、年の途中で退職するとその精算が行われないまま源泉徴収が終わります。
この場合、払いすぎた税金を取り戻すためにも確定申告を行う必要があります。
退職後に副業収入や不動産収入など、給与以外の所得が年間20万円を超えた場合も申告が必要です。
また、公的年金の収入が年間400万円を超える場合や、医療費が年間10万円を超えて医療費控除を受けたい場合にも、確定申告が求められます。
さらに、退職後に任意継続や国民健康保険に加入して保険料を自分で納付した場合、社会保険料控除を受けるために申告が必要になります。
確定申告が不要なケース
退職金については、退職時に会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、退職所得として源泉徴収が完結するため、原則として確定申告は不要です。
また、公的年金の収入が年間400万円以下で、かつ年金以外の所得が20万円以下の場合も、原則として確定申告は不要です。
ただし、医療費控除や社会保険料控除など各種控除を受けたい場合は、申告不要であっても申告することで税金が戻ってくる可能性があります。
年の途中で退職した場合は還付申告で税金が戻る
確定申告の中でも、退職者にとって特に重要なのが「還付申告」です。
年の途中で退職した方の多くは、申告をすることで払いすぎた所得税が返ってくる可能性があります。
「確定申告は面倒」と後回しにしてしまうと、受け取れるはずのお金を損してしまうことになりかねません。
年末調整を受けられないと源泉徴収過多になる仕組み
会社員は毎月の給与から所得税が源泉徴収されていますが、この金額はあくまで概算です。
年末調整によって1年間の正確な税額を計算し直し、払いすぎた分が12月の給与で返ってくる仕組みになっています。
しかし年の途中で退職した場合、年末調整が行われないため、概算で引かれた税金がそのまま確定してしまいます。
退職後に収入がなくなった分だけ年間所得が下がるため、本来の税額より多く納めているケースがほとんどです。
この差額を取り戻すのが還付申告の役割です。
還付申告の対象になるケース
定年退職や早期退職など、年の途中で退職して同じ年に再就職しなかった方は、還付申告の対象になる可能性が高いといえます。
退職後に収入がない期間が長いほど年間所得が低くなり、還付される金額が大きくなる傾向があります。
また、退職後に医療費控除や社会保険料控除など各種控除を申請する場合も、合わせて還付申告を行うことで節税効果が高まります。
還付申告は1月1日から5年間いつでも申請できる
通常の確定申告の期間は毎年2月16日から3月15日ですが、還付申告に限っては翌年の1月1日から申請が可能です。
さらに、還付申告の申請期限は5年間と定められているため、退職した年にすぐ申告できなかった場合でも、5年以内であれば遡って申請することができます。
「退職した年に確定申告をし忘れた」という方も、まだ間に合う可能性があります。
ただし、申告が遅れるほど還付金の受け取りも遅くなるため、早めに手続きを済ませることをおすすめします。
退職金と確定申告
退職金を受け取った場合、確定申告が必要かどうかは、退職時に一つの書類を提出したかどうかで決まります。
多くの方が「退職金にも税金がかかるのでは」と不安に思いますが、手続きさえ正しく行っていれば原則として申告は不要です。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば原則申告不要
退職時に会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合、退職金にかかる所得税は会社が源泉徴収の段階で適切に計算・納付します。
この場合、退職金については確定申告をする必要はありません。
多くの会社では退職手続きの中でこの書類の提出を案内しているため、すでに提出済みの方がほとんどです。
退職時の書類を確認してみると安心です。
提出していない場合は申告が必要なケースも
一方、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない場合は、退職金に対して一律20.42%の税率で源泉徴収が行われます。
この場合、本来の税額と異なる可能性があるため、確定申告によって精算が必要になるケースがあります。
自分が提出したかどうか不明な場合は、退職前の勤務先に確認してみましょう。
退職金の税計算の詳細は専門記事で確認を
退職所得控除の計算方法や、退職金を一時金で受け取る場合と年金形式で受け取る場合の比較など、退職金にまつわる税計算の詳細については退職金の受け取り方・税計算はこちらで詳しく解説しています。
年金受給者の確定申告
退職後に公的年金を受給している方も、年金の収入額によっては確定申告が必要になります。
ただし、一定の条件を満たせば申告が不要になる「確定申告不要制度」が設けられているため、まず自分が対象かどうかを確認しましょう。
公的年金等控除の仕組み
公的年金等は「雑所得」として課税の対象となっており、一定金額以上を受給するときには所得税が源泉徴収されています。
ただし、年金収入の全額が課税されるわけではなく、「公的年金等控除」という控除が差し引かれた後の金額が課税対象になります。
控除額は年齢や年金収入の金額によって異なりますが、65歳以上の方は65歳未満の方より大きな控除が適用される仕組みです。
年金収入400万円以下で他の所得20万円以下は申告不要
公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下で、かつ年金以外の所得が20万円以下の場合は、原則として確定申告は不要です。
多くの年金受給者はこの条件に当てはまるため、申告不要のケースがほとんどといえます。
申告不要でも住民税申告が必要なケースがある
所得税の確定申告が不要であっても、医療費控除や社会保険料控除など所得控除の追加や変更がある場合は、住民税の申告が必要になるケースがあります。
確定申告をすれば住民税も自動的に申告したことになりますが、確定申告をしない場合は別途、市区町村に住民税の申告を行う必要があります。
「申告不要だから何もしなくていい」と思い込まず、各種控除を受けたい場合は申告を検討しましょう。
なお、年金の受け取り方(繰り下げ受給など)の損益分岐点については繰り下げ受給の損益分岐点はこちらで詳しく解説しています。
退職後に使える主な控除まとめ
退職後は収入が大きく減るため、在職中には使えなかった控除が新たに適用できるケースがあります。
申告をすることで税金が戻ってくる可能性が高まるため、自分に当てはまる控除がないかを一つずつ確認することが大切です。
医療費控除
1年間に支払った医療費の合計が10万円を超えた場合、超えた分を所得から差し引ける控除です。
病院での診療費や薬代のほか、介護サービスの費用も対象になります。
退職した年は年間所得が低くなるため、医療費の合計が10万円に満たない場合でも、所得の5%を超えた分が控除の対象になるケースがあります。
年間の医療費の領収書は捨てずに取っておくことをおすすめします。
社会保険料控除
退職後に任意継続や国民健康保険に加入して保険料を自分で納付した場合、その全額が控除の対象になります。
国民年金保険料も同様に控除の対象です。
退職後に自分で支払った社会保険料は控除の対象となりますが、退職前に給与から差し引かれていたものはすでに年末調整で反映済みのため、対象外となります。
任意継続や国保の保険料は金額が大きくなりやすいため、忘れずに申告することで節税効果が期待できます。
退職後の健康保険の選び方については任意継続・国保の保険料はこちらをご覧ください。
生命保険料控除・地震保険料控除
在職中から加入している生命保険や地震保険の保険料も、確定申告で控除を受けることができます。
年末調整で申告していた場合と同様に、保険会社から届く控除証明書をもとに申告します。
退職後に確定申告を自分で行う場合は、これらの証明書を紛失しないよう保管しておきましょう。
配偶者控除・扶養控除
退職によって収入が大幅に減った場合、これまで適用されなかった配偶者控除や扶養控除が新たに使えるようになるケースがあります。
令和7年度の税制改正では扶養親族等の所得要件が引き上げられており、退職後の収入水準によっては控除の適用範囲が広がっている可能性があります。
また、19歳以上23歳未満の子どもを扶養している場合は、新たに設けられた「特定親族特別控除」の対象になるケースもあるため、最新の制度を確認しておくことをおすすめします。
自分の状況に当てはまるかどうか不明な場合は、税務署や税理士への相談が確実です。
確定申告の手順・期限・提出方法
確定申告は手続きが複雑そうに見えますが、必要書類を揃えてしまえば思ったよりもスムーズに進められます。
e-Taxを使えば自宅からオンラインで申告できるため、税務署に出向く手間もかかりません。
期限と手順を把握しておくことが、申告をスムーズに終わらせる第一歩です。
申告期間:通常2月16日〜3月15日、還付申告は1月1日から
通常の確定申告の受付期間は毎年2月16日から3月15日です。
この期間内に申告・納税を済ませる必要があります。
一方、税金の還付を受けるための還付申告は、翌年の1月1日から申告が可能です。
還付申告は5年間遡って申請できるため、過去に申告し忘れた年がある場合も対応できます。
必要書類一覧
申告に必要な主な書類は次のとおりです。
退職した年の源泉徴収票は勤務先から受け取れます。
医療費控除を受ける場合は医療費の領収書または医療費通知書、社会保険料控除を受ける場合は任意継続や国保の保険料納付済み通知書が必要です。
生命保険料控除や地震保険料控除には各保険会社から届く控除証明書が必要になります。
マイナンバーカードまたはマイナンバー確認書類と本人確認書類も忘れずに準備しましょう。
退職後の手続き全体の流れについては退職後の手続き全体はこちらをご覧ください。
e-Taxでの申告手順の概要
e-Taxとは、国税庁が提供するオンライン申告システムです。
マイナンバーカードとスマートフォンまたはパソコンがあれば、自宅にいながら申告を完結させることができます。
国税庁の確定申告書等作成コーナーにアクセスし、画面の案内に従って収入や控除の金額を入力すると、自動的に税額が計算されます。
e-Taxで申告した場合は、還付金の受け取りも郵送申告より早くなる傾向があります。
税務署への持参・郵送の場合
e-Taxを使わない場合は、申告書を紙で作成して税務署に持参するか、郵送で提出します。
申告書の用紙は税務署の窓口で入手できるほか、国税庁のウェブサイトからも印刷できます。
税務署の窓口では職員に確認しながら記入することもできるため、初めて申告する方でも安心して手続きを進められます。
確定申告をしないと損するケース
確定申告は義務がない場合でも、申告することで税金が戻ってくるケースがあります。
「自分は申告不要だから」と判断して何もしないでいると、受け取れるはずのお金を取り逃がしてしまうことになりかねません。
還付金を受け取り損ねる
年の途中で退職して年末調整を受けていない場合、源泉徴収で払いすぎた所得税がそのまま放置されることになります。
還付申告をすれば数万円単位で税金が戻ってくるケースも珍しくないため、「申告が必要かどうかわからない」という場合でも、まず申告することを検討する価値があります。
医療費控除・社会保険料控除を取り損ねる
退職後に高額な医療費を支払った場合や、任意継続・国民健康保険の保険料を自分で納付した場合、確定申告をしなければこれらの控除を受けることができません。
控除を受けることで課税所得が下がり、所得税だけでなく翌年の住民税も低く抑えられる可能性があります。
申告しないことは、使えるはずの節税手段を丸ごと手放すことと同じです。
住民税が高いまま放置される
確定申告をすると、その情報が市区町村に自動的に伝わり、住民税の計算にも反映されます。
申告をしないまま放置すると、控除が反映されない状態で住民税が計算されるため、本来より高い住民税を払い続けることになるケースがあります。
住民税の仕組みや払い方の詳細については退職後の住民税についてはこちらをご覧ください。
自分の状況に確定申告が必要かどうか、またどの控除が適用できるかの判断が難しい場合は、ファイナンシャルプランナー(FP)や税理士への相談が確実です。
退職後のお金の不安をまとめて整理したい方には、無料で相談できるFPサービスの活用をおすすめします。
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よくある質問
Q. 確定申告と住民税申告は別物ですか?
確定申告と住民税申告は制度上は別のものですが、確定申告をすれば住民税の申告も同時に行ったことになります。
そのため、確定申告をした方が改めて住民税の申告をする必要はありません。
ただし、所得税の確定申告が不要なケースでも、各種控除を受けたい場合は市区町村に住民税の申告を行う必要があります。
住民税の仕組みや計算方法の詳細は退職後の住民税についてはこちらをご覧ください。
Q. 退職後に収入がない年も確定申告は必要ですか?
収入がゼロの年は原則として確定申告の義務はありません。
ただし、年の途中で退職して同年に収入があった場合は、還付申告の対象になる可能性があります。
また、医療費控除や社会保険料控除など各種控除を受けたい場合は、収入がない年でも申告することで住民税の軽減につながるケースがあります。
「必要ないから申告しない」と決める前に、自分に適用できる控除がないかを確認しておくことをおすすめします。
Q. 退職した年だけ確定申告が必要で、翌年以降は不要になりますか?
退職した年は年末調整が受けられないため、確定申告が必要になるケースが多いといえます。
翌年以降は収入の種類や金額によって必要かどうかが変わります。
年金収入が400万円以下で他の所得が20万円以下であれば原則不要ですが、医療費控除や社会保険料控除など各種控除を受けたい場合は毎年申告することをおすすめします。
退職後も毎年の状況を確認する習慣をつけておくと安心です。
Q. 確定申告は税理士に頼むべきですか?自分でできますか?
収入の種類が少なく、シンプルなケースであれば自分で申告することは十分可能です。
国税庁の確定申告書等作成コーナーやe-Taxを使えば、画面の案内に従って入力するだけで申告書が作成できます。
一方、副業収入や不動産収入がある場合や、退職金・年金の両方を受け取っている場合など、収入の種類が複数にわたるケースは税理士に相談することで申告漏れや誤りを防げます。
判断に迷う場合は税務署の無料相談窓口を活用するのも有効な方法です。
Q. 確定申告の期限を過ぎてしまった場合はどうなりますか?
税金を納める必要がある申告については、期限を過ぎると延滞税や加算税が発生する場合があります。
一方、還付申告については期限後でも5年間は申請が可能なため、期限を過ぎていても還付を受けることができます。
期限を過ぎてしまった場合でも、申告できる状況になったら速やかに手続きを進めることが大切です。
まとめ
退職後の確定申告は、義務として捉えるだけでなく、払いすぎた税金を取り戻すための手段として活用できます。
年の途中で退職した方の多くは還付申告の対象になる可能性があるため、「自分には関係ない」と判断する前に一度確認することをおすすめします。
退職後に使える控除は医療費控除・社会保険料控除・配偶者控除など複数あり、収入が減ったことで新たに適用できるものが増えるケースも少なくありません。
申告することで所得税だけでなく翌年の住民税も低く抑えられる可能性があります。
e-Taxを使えば自宅から手続きを完結できるため、初めての方でも取り組みやすい環境が整っています。
まずは源泉徴収票と医療費の領収書を手元に揃えることから始めてみましょう。
退職後の手続き全体については退職後の手続き全体はこちらでまとめて確認できます。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断については税務署または税理士にご相談ください。

